*旅、松本へ行く*

 3月も半ば、だいぶ雪が融けてきました。
 それでもまだ田畑には1m近く雪が積もっています。
 去年の今ごろはだいぶ雪も融けていて、田畑はまだ雪の下だったけれども、作業場や育苗ハウス周りは土も見えてきていました。今年はまだそこまで融けていません。
 積もった雪の消雪作業に掛からなければならないのですが、その前に、春の作業が始まる前に、ということで有機農業の研修、視察に行ってきました。
 行き先は長野県、松本市の自然農法センターと松川町。
 自然農法センターは一昨年から栽培技術の指導を受けており、松川町は地元産の有機食材を学校給食に取り入れているということで、それらの現場の声を直接見聞きしようというのが目的です。

 それにしても十数年ぶりの長野県。前回はオートバイでのツーリング。今回は冬、そして研修ということで鉄路による旅。
 特に鉄道好きでもないので、長い道中は100%読書タイム。

 出発点、新庄駅は新庄ゆかりの作家、今村翔吾さんが『塞王の楯』で直木賞を受賞したということで、すっかり今村祭状態。立ち並んだ立て看板やら、垂れ幕やらにぎやかです。
 でも今回持参したのは伊東潤さんの『北天蒼星 上杉三郎景虎血戦録』と『峠越え』。
 持参したといっても電子書籍。本当は文庫派なのですが、多少なりとも荷物を少なくしたいということと、急激に進んだ老眼対策。
 文字を大きく出来る電子書籍はなんともありがたいです。

 山形新幹線乗車、さっそく読書開始。
 『北天蒼星』は戦国時代、小田原北条家に生まれ、上杉謙信の養子となり、謙信の死後同じく養子だった上杉景勝と後継を争い、やがて敗れ去った上杉景虎の物語。
 運命に翻弄され続ける景虎、最初から最後まで翻弄されっぱなし。そして敵対する直江兼続の憎々しさったら。
 権力を得るためならどんな悪行にも手を染める極悪人。これでもかってくらい嫌なやつに描かれています。
 歴史ドラマや小説では有能で義に厚い忠臣。超いい人。のイメージの強い兼続が、敵役とはいえ、すごい描かれよう。
 以前読んだこの小説の姉妹編『武田家滅亡』にもチラッとだけ顔を出して、嫌なやつに描かれてるなあって思ったのだけれど、今回は完全に嫌なやつ。ドラマとかで登場しても、もう素直には見られないくらいの、トラウマ級の嫌なやつでした。

 そうこうしているうちに大宮乗り換えで長野まで、初北陸新幹線。長野から各停で松本まで。朝出発して夕方着。松本、遠いな。
 ホテルチェックイン前に、いつも通販で種を買っている『つる新種苗』さんを訪問。
 ちょうどいい黒豆無いかな、と相談したところ、ちょうど良さそうなのが来週入荷との情報。帰ってからまたネットで注文します。

 翌朝、起きたら東北で大きな地震のニュース。新幹線止まっとるぞ。こりゃ帰れんぞ。

 ともかく研修。レンタカーで自然農法センターへ。

 『公益財団法人自然農法国際研究開発センター』
 化学肥料や合成農薬に頼らずに、自然界の仕組み、特に土の偉力を最大限に活用する自然農法の技術確立、普及を目指して、試験研究、教育研修、国内外への普及活動に取り組んでいます。
 ということで、一昨年から私も参加する『もがみオーガニックビレッジ協議会』の事業として、有機の稲作、野菜栽培の指導をしていただいています。
 具体的な数値をもとにした栽培の方法や対策は説得力があり、何処をどう改善すればいいのか、分かり易く取り組みやすい内容です。

 まずは田んぼと畑を見させていただきました。
 秋に二回起こすという田んぼ。藁と攪拌された土はサラッと乾いています。これだけで家の方とは大違い。
 新庄は秋、雨が多く、稲刈り後に一回田んぼに入れたらめっけもん。みたいなところがあります。
 すき込んだ藁の分解を促すため、松本ではいかに土を乾かさないか、新庄ではいかに土を乾かすか、と180度逆の対策が求められます。長野、雪がまったく無いのにビックリ。この場に立って、感じただけで来た甲斐がありました。

 畑は緑肥を活用した野菜栽培を見学。これから肥料代が高騰しそうな話が聞こえてくる昨今、是非とも導入したい技術でした。

 それから自然農法センターでは自然栽培した種子を生産・販売しています。その設備も見せてもらいました。
固定種、交配種とも、手作業で受粉作業をしたり、交雑しないように袋を被せたり、雄性不稔技術の入り込む余地のない手間の掛かった種子生産。
 家では雄性不稔への懸念から固定種の種だけを使って来たのですが、こういう種子なら交配種でも安心して使えます。

 自然農法センターをあとに一路松川町へ。
 途中街道沿いの蕎麦屋で昼食。やっぱ、長野に来たら信州蕎麦食べなくちゃ。
 蕎麦処山形県人としては点数が厳しくなりますが、十分に合格点でした。

 高速を使って一時間ちょっと、松川町へ。
 学校給食への有機食材導入の経緯やら、現状やらを町の担当者の方から伺いました。
 はじめは遊休農地の解消目的の市民農園的な取り組みから始まったそうで、そこから地元農家による有機食材の導入への経緯は、なんともダイナミック。さも簡単そうにサラッと説明されていましたが、ハブとなる担当者の方の熱意あってのことと理解しました。
 給食メニューも見せていただきましたが、週4ご飯でパンなどが週1、ここまでは家の方の給食と一緒なのですが、おかずのメニューがほぼ体に良さそうな和食。幕内秀夫さんが勧める粗食的メニュー、週1でご馳走的メニュー、といった感じ。担当栄養士さんのこだわりですかね。
 家の方の学校はご飯食でもおかずが外食っぽいご馳走メニューが多いのが気になっているのですが、そこはやはり食材の安全性よりも先に改善してもらいたい点ですね。

 一日研修を終えホテルへ。明日、どうやって帰ろうか。

 明くる日、山形新幹線は不通。新潟経由で帰ることに。
 松本→長野→高崎→新潟→余目→新庄と、篠ノ井線、北陸新幹線、上越新幹線、羽越本線、陸羽西線を乗り継ぎ乗り継ぎ帰途へ。
 列車は11時発。出発まで時間が余ったので、松本城見学。国宝ですよ。見なきゃ。
 立派!存在感!綺麗!存在感!!見事な石垣。なるほど、これが『塞王の楯』で解説されていた野面積みってやつか。
 山形城の大手門や、上田城跡など入ったことはあるけれど、天守閣に入るのは初めて。すごい!木造ですよ。鉄筋じゃないんですよこれ。
鉄砲狭間や弓狭間から外を覗くと、まさに先日読んだ『塞王の楯』の籠城戦が蘇ります。

 お腹いっぱいお城を堪能し、歩いて駅へ。
鉄路、再び読書モード。

 『北天蒼星』読了。
 最後の最後まで運命に翻弄された景虎。そして憎たらしさ倍増の兼続。
 『峠越え』に取り掛かる。
 本能寺の変に伴う徳川家康の伊賀越えを描いた作品。
 伊東潤さんの描く家康が好きです。
 凡人であるコンプレックスにさいなまれながら、英雄豪傑の間を右往左往し、やがて天下人となる家康。
 劣等感と戦いながら乱世を泳ぎ渡っていく様がなんとも愛おしい。
読了前に新庄駅到着。
 新庄は今日も雪降りでした。

(2022年3月)

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