*青森行 〜日本海のスローライフ

 2月11日、今回の青森行きは青森県鰺ヶ沢町で行われる「全国合鴨フォーラムあおもり大会」に参加するため。
 一応有機農業の研鑚を深めるという目的はあるものの、本音はここ数年田んぼの仕事に追われ、ぜんぜん遠出できなかったこともあり、わずか一泊二日ながら温泉でゆっくり骨休めしたいといった下心。
 
 鰺ヶ沢町は青森の日本海側。秋田道を通って海沿いを北上するか、岩手方面に向かい東北自動車道で青森まで行った方がよいか。時間的には東北自動車道の方が早そうだったけれど、「冬の日本海」という何とも旅愁をかき立てる、しかも何となく美味しそうなフレーズに導かれ日本海北上のルートを選んだ。
 早朝4時出発。−12℃という前日の予報だったが、気温は−7℃、ホッとする。
 
 能代市で高速を下り、国道7号線から101号線へ。能代は工業の町って雰囲気。早朝でもけっこうチェーン店のラーメン屋なんかが営業している。これも工業の町だからだろう。
 もうちょっとしてから朝食を食べようと思っていたのだが・・・無い。日本海を左手に北上する国道101号線。のどかというか、なんというか、ドライブインみたいなものもあんまり無い。ましてやコンビニなど一切無い。小さな町でたまに食堂を見つけても、営業していない。まだ時間が早いから仕方ないけれど、店によっては「本日休業」の看板。え?今日って休日だよな?稼ぎ時じゃあないの?ドーナッテルノ?
 
 左手には冬の日本海。でも天気が良いせいか、あまり荒れた感じはなく穏やかに美しい。海沿いのせいか雪が少ない。正面に見えるのは世界遺産白神山地。第一印象は「でっかいけど雪が少ないなあ」。
 
 なんにもない。よく見かけるのは海沿いの小さな小屋に掲げられた「干しイカ」の看板。よし、帰りはイカ食うぞ。
 海岸に沿ってくねった国道を走り、やっと鰺ヶ沢近くになって弁当屋兼コンビニみたいな店を見つけて朝食にありついた。
 
 
 大会は海沿いのりっぱな公共施設で、泊まりは近くの第三セクターらしきホテル。後援が青森県、木造町、鰺ヶ沢町、そして各JAということで「張り込んだな」って感じ。
 夜の交流会。メインはもちろんアイガモ鍋。しょう油だけ、みたいな割とシンプルな味付け。その他、海沿いの町ということで、お刺身、さらには郷土料理各種。鮭やハタハタを麹で漬けたもの。思いのほか味付けは甘め。うちの方は塩っ辛いものが多いけど、同じ東北でもずいぶん違うもんだ。
 出席されていた地元の方に、今日、休日なのにお店が開いていないって話をしてみた。
 「ここらはそういう土地柄なんですよ」
 なるほど、そんな気がしてきた。おおらかというか、のんびりしているというか、物事に焦っていないような感じがする。町のたたずまいとか、生活の雰囲気とか。
 その昔は日本海舟運で栄えたというが、秋田や山形の大きな市と違い、今はその面影がない。思えば秋田から青森への幹線道路は能代から内陸に切れ込み、弘前を通って青森に至る。そういった意味では取り残された土地なのかもしれない。だからみんなのんびりしているのだろうか?時間がゆっくり流れている感じがする。
 
それにしても集まったもんだ。300人以上の大宴会。アトラクションとして津軽三味線奏者・高橋竹山の流れをくむ「竹山会」による津軽三味線の演奏。生は迫力が違います。圧巻の一言。津軽の地で聴く津軽三味線。カンゲキです。もう、これだけで来た甲斐があったというもの。おかげで、アイガモの話なんか全部吹っ飛んでしまいました。
 
 次の日は昼で解散。今度は来た道を南下。強い風に乗って日本海から流れてくる雪雲が雪を降らせたり、日が差し込んだり。海は昨日よりちょっと波が荒く、いかにも冬の日本海。津軽三味線がよく似合う風情。
 海端には「海の家」みたいな掘っ立て小屋が立ち並ぶ。イカを食うぞ! 一軒の小屋の前に車を着けて小屋の中へ。小屋というか乾物屋だ。軒下といい、屋内といい、魚やら、イカやら、タコやら、そこら中無造作に干物がぶら下がっている。
 店の中のおおざっぱな棚にも近海で捕れたとおぼしき魚の干物がいっぱい。店の脇にあるでっかい物干し台で干すんだろうな。
 板張りの床をきしませて店主らしきおばあさんがのそのそと登場。店の奥は座敷になっていて、ご近所さんらしいおばあさんがコタツに入り、テレビを観ながらお茶を飲んでいたりする。
 イカの一夜干しを注文すると、おばあさんが店の裏に回り、凍みついた一夜干しを持ってきて紙に包んでくれた。一枚は焼いてもらい、車中で食べた。さっと粗塩がふってある。おおぅ、日本海の味だ。
 おばあさんの何ともゆっくり、のんびりとした対応。商売する気があるのか、無いのか。このおばあさんはこの町から一歩も外へ出たことがないんじゃないだろうか。そしてこのままこの土地で朽ち果てていくんじゃないだろうか。
 都会とはなんにも繋がりのない、おばあさんたちのこんな暮らしが本当のスローライフってやつじゃないかとか、しみじみ感じ入ってしまった。
 
 昼食は海沿いのドライブイン。ここでもイカの刺身定食を食べた。つくづくイカが好き。
 
 最後に立ち寄ったのが黄金崎不老ふ死温泉。というか、実はこのルートを選んだ一番の理由はここに立ち寄りたかったから。
 国道からちょっと脇道に入り、グググーッと下っていくと、日本海の荒波寄せる海岸に岩づくりの露天風呂がでーんと鎮座している。何とも風変わりな。
 まず内湯にはいって温まってから、いったん服を着て、海沿いの露天風呂まで歩いていく。鉄サビ色の濁った温泉。ウン、温泉だ。
 ここは日没の頃が一番きれいだそうだけれど、荒波のうちつける昼間の景色も迫力満点。砕ける波の音に包まれながら、冷たい冬の風を受けつつ入る温泉は、ほんとにもう、たまりませんな。ゴクラクですな。時間を忘れていつまでもこうして浸かっていたいもんだ。
 
 まんぞく、まんぞく。ひさびさ命の洗濯でした。
 それにしても帰路、秋田県を横切り、わが最上地方に入ったとたん吹雪。その雪の多さといったら・・・春は遠いなあ。

(2004年2月)

黄金崎不老ふ死温泉
黄金崎不老ふ死温泉

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