*さやえんどう 〜サヤに入ったニクい奴

 梅雨です。深く積もった雪から解放された4月。ほんのつかの間、夏の気配を感じさせてくれた5月。そしてやってきたジメジメと暗い梅雨の季節。一般的にはあまり好まれない季節みたいですね。
 明るく淡かった新緑が、長雨の中だんだんその色を濃く、深く変えていく季節でもあります。ここ新庄・最上がもっとも生命の躍動感に満ちる季節。圧倒されるほどです。
 そんな息苦しいほどの深い緑の季節に、淡く若々しい緑で和ませてくれるのがさやえんどうです。

 さやえんどうはおしゃれですね。というか粋ですね。なんだかお上品に感じますね。
 もちろん「豆」としても食べますが、なんだか「エンドウ豆」には季節感が薄い感じがします。ちょっと粋さが足りません。そこにいくと張りのある若々しいサヤをまとった、と言うかサヤそのものの「さやえんどう」は何ともすがすがしい感じがします。
 さやえんどうは豆なのにとても謙虚なのです。あくまでサヤに入ったまま勝負します。
 黒澤明監督の映画『椿三十郎』で家老の奥方が三船敏郎扮する素浪人・三十郎に「あなたはギラギラして抜き身のようですね。良い刀はサヤの中に入っているものです」と言うシーンがありましたが、まさにさやえんどうはそれです。「能ある鷹は爪を隠す」といったところでしょうか。
 調理次第で和風にも、洋風にも、中華風にもなってしまう。主役はもちろん、脇にまわっても主役を殺さず、しっかりと自分を主張する。器用な上に何ともすがすがしい、爽やかな奴なんです。
 暗い雲と冷たい雨に閉ざされた長い梅雨の日々。食卓に上るさやえんどうは、そのシャキッとした歯触りと爽やかな香りで、夏への希望を繋いでくれる。さやえんどうはそんな粋な奴なんです。

 ところで・・・「サヤインゲンもあるじゃないか」といわれそうですが、ここはどうかエンドウさんにハナを持たせてやってください。

(2003年6月)

にっくきカラス
にっくきカラス

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