*原発事故の後で*

 あの日まで大部分の人は原発は危険なものだが、ちゃんと安全が確保されているものだと、漠然と思い込んでいたのではないでしょうか。そして原発が無ければ電気が足りない、経済や生活が立ちゆかないと思い込んでいたのでは無いでしょうか。
 一部の人がいくら危険性を訴えていても、それは架空の、想像上の絵空事だったのではないでしょうか。
 もちろん私もそうでした。原発の爆発なんてSFの世界の話でした。ところがそれが現実に目の前で起きました。そして爆発後、いろいろとネットを通して、原子力の信じがたい実態が明らかになってきました。そして大手メディアがそれをあえて明らかにしないということも明らかになってきました。

 爆発直後はやはりテレビや大手メディアの情報を信じていました。いくらネットで危険性が報じられていても、「誤った情報に惑わされてはいけない。踊らされてはいけない」と、日々流される大手メディアの宣伝に乗せられ、情報をシャットアウトしていました。
 しかし時間が経ち、出てくる実際の状況と大手メディアの報道のギャップに違和感を感じ始め、自らインターネットの情報を掘り下げていくうちに、今この国が重大な事態に陥っていることを思い知らされました。

 テレビや新聞では盛んに風評被害という言葉が流れ出しました。
 風評被害とは、根拠の無い噂のために受ける被害のことだそうです。しかしどうにもしっくり来ません。本当に根拠の無い噂のせいと片付けてよいのでしょうか。現実に放射能はばらまかれているのです。絶対安全なはずのものが爆発して、起こるはずの無い汚染が起こったのです。しかも本当のことが発表されるのが、常に数ヶ月経ってから
。安全宣言後に発覚する新たな放射能汚染の事実。放射能検査の結果を公表しないメーカー。安全性が疑わしい暫定規制値など、不安材料が山ほどある現実を受けて、消費者は自衛しているだけなのでは無いでしょうか。それで売れないのは根拠の無い風評では無く、実害なのでは無いでしょうか。

 風評被害という言葉にしっくり来ないもう一つの理由は「悪いのは放射能をばらまいた東電では無く、買わない消費者のほうだ」といっているように聞こえるからです。
 悪いのは放射能をばらまいた東電のはずです。そして国民に真実を隠して不安をあおった国のはずです。
 今国は原発事故など無かったかのような、放射能汚染は終わったような前提で、原子力政策を進めています。大手のメディアも不都合な情報は流しません。しかしここで立ち止まって、いったい何が起きたのかを正面から向き合って考える必要があるのでは無いでしょうか。
 事故が起きなくても、何万年も毒性が続く放射性廃棄物が、行き場も見つからぬままどんどん生み出されているのです。
 そして安全よりも経済性を優先して、原発の再稼働が強行されようとしています。
 我々はどっちの方向へ向かうべきか、または向かいたいか、一人一人意思を示すべき時期では無いでしょうか。そして示す手段が今はたくさんあるのです。
 私は原発反対、即時全廃を支持します。

(2012年6月)

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