*ナスを食べる話*

 7月1日、うちの畑で今年とれたナスが初めて食卓に上りました。
 あの深く濃い紫、黒いヘタの裏は白くてほんのり黄緑がかっています。そしてヘタと皮の境目のにじんだような赤紫色が何ともいえず食欲をさそいます。
 わが家ではこのナスがまだ梅雨の明け切らぬ頃から、涼風が残暑を払い去り、すっかり夏のにおいが消え、完全な秋になるまで毎日食卓に上ります。
 天ぷら、炒め物、みそ汁の実、ダシ(山形の郷土料理)と料理法もいろいろありますが、わが家では90%以上の確率で「ナス漬け」と「ナス焼き」が出されます。
 「ナス漬け」は丸のまま塩漬けにしたもので、しわくちゃになるまでしっかり漬けたものよりは、中身が黄色く、身がプリプリしたものの方がなんといっても美味い。夏の香りがします。
 穫りたてのナスを縦半分に切って、皮に切れ目を入れて油で揚げた「揚げナス」をわが家では昔から「ナス焼き」と呼んでいます。私はこのナス焼きが大好きで、小皿にしょうゆをダブダブに注いで、一味唐辛子をバンバン入れたところに、ナス焼きをビチャビチャひたして、さらに箸で身をつつき、中まで十分しょうゆをいきわたらせ、ご飯と一緒にかぶりつきます。三ヶ月もの間、毎日これでもゼンゼン飽きません。
 栄養が偏るといわれそうですが、その土地でその季節に穫れたものを食べるのが体には一番いいんじゃないかと思えてきます。
 これほどナス好きの私ですが、高校生の頃はナスがまったくだめでした。唯一ナス漬けだけは好きだったのですが、ナス焼きなどはあの淡い甘みと、油っこさが気持ち悪く感じて、とても食べられませんでした。
 それが、20歳を過ぎた夏のある日、突然、無性にナス焼きが食べたくなり、一口食べたらいきなり大好物になってしまいました。人の味覚っていうのは不思議なもんだなあ。
 とにかくそれ以来、夏にナスを食べない日はないというくらい、私の夏にナスはピッタリはまっています。
 今年もまたそんな季節がやってました。

(1999年7月)

ナス焼きを食う
ナス焼きをしょうゆにビチャビチャひたして食う

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