*20代の読書、30代の読書*

 20代の頃は小説、エッセイ、古典、入門書、専門書、それこそジャンルを問わず何でも読みました。
 選ぶ基準はタイトルと装丁。きわめて安易な基準です。ですから印象に残っているものもあれば、ゼンゼン覚えていないものもあります。
 さすがに30歳を過ぎると、こういった乱読は気力がついてこなくなってきて、好きな作家や興味のある分野のものに限られてきました。
 その中でも特に好きな本は何度も読み返します。
 「好きな本」の基準の第一は読みやすいことです。これまた安易な基準なんですが、読書好きの割にはこむずかしい文章の本や、やたらダラダラと理屈っぽい本は苦手です。だって読んでいて楽しくないでしょ?
 何を思ったか、この間サン=テグジュペリの「人間の土地」(新潮文庫版)を読み返しました。20代前半のころに読んだ本です。「何を思ったか」ってのは、とにかく文章がこむずかしくって読みにくいんです。
 そのころ宇宙飛行士とテスト・パイロットを主人公にした「ライト・スタッフ」という映画が好きで、原作本や、登場人物のチャック・イエーガーの自伝を読み、パイロット独特の考え方やパイロット的な視点といったものに興味を持ちました。それでパイロット関連の本を色々読みあさっているときに出会ったの中の一冊でした。
 サン=テグジュペリの本を読むのはこれが最初ではありません。高校生の頃、学校の図書室にあった「星の王子さま」を読んだのが最初です。
 それまであまり本を読むということに興味がなかったのですが、何気なく手にしたこの本との出会いが、その後読書好きになるきっかけを作ったのでした。
 ただこの「人間の土地」という本はあまり印象に残っていません。読みにくかったせいもあり、「一応最後まで読んだ」という程度の記憶しかありません。
 ところが30代半ばになった今読み返してみると、文章のこむずかしさは相変わらずなんですが、一行一行読み進むたびに胸に響くものがあります。これはなんでしょう。歳をとったせいでしょうか?というよりも10年ほどの間に色々な経験を積んだせいだと思います。
 サン=テグジュペリは1900年にフランスに生まれ、15年間にわたってパイロットとして各地を廻り、その経験にもとづいていくつかの著書を記しています。
 「人間ってなんだろう?」といったテーマがパイロットの視点、旅人の視点で描かれています。その辺がいくつかの旅を経験した私の琴線に触れたのかもしれません。
 もちろん不時着して3日3晩飲まず食わずで砂漠の中をさまよったというようなテグジュペリの経験とはくらべるべくもありませんが、旅の中での小さな経験一つ一つの積み重ねが、この本を読み返したときに、以前とは違った印象をもたらしたのかもしれません。
 これから10年後、20年後、40代、50代になってこの本を読み返したとき、果たしてどんな印象を受けるのでしょうか。今からそれがとても楽しみです。
 でも、もうちょっと読みやすい翻訳本ないかな。

(2000年3月)

夜間飛行
夜間飛行

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