五月です。五月は雪国・新庄が一番美しい季節と言い切ってしまってもいいのではないでしょうか。
きびしい冬を乗り越え、灰色の空から解放される四月。白銀の原は夢のように消え失せ、黒い土と枯れた草が新しい季節を迎える準備を始めます。
そして五月。雑草は枯れ草の間から新芽を出し、表土を徐々に緑で覆っていきます。東に連なる奥羽山脈は残雪の白を日毎に小さくし、姿を赤紫色に変えます。そして山麓からだんだんと山頂に向かって淡い緑が登っていくのが五月です。
空気もごくうすいセピアのフィルターをかけたように輝きます。まるで白ワインの中にいるような感じです。
こんな美しい季節ですが、ちまたには五月病という病気が蔓延するそうです。
この五月病というのは、新学期を迎えた学生や、新しい職場に入った社会人が、新しい環境に慣れ始めた五月頃に気分が憂鬱になったり、不安になったりする一種のノイローゼなんだそうです。
実は農家にもあるんです。五月病が。しかも毎年発病する。いやはや恐ろしい。
農家、特に雪国の稲作農家は春になって雪が消えてくれるまでなんにもできません。そして四月、雪解けとともにバタバタと仕事が始まります。
種籾を水に浸けて、床土の準備をして、そして種まき。肥料散布、田起こし、代かき、田植えと息つくヒマもありません。
一日仕事が遅れればすべての仕事が遅れていきます。しかも天気相手の仕事だから、イヤでも遅れてしまうことだってあります。
苗の生育に神経をとがらせ、毎日毎日天気とにらめっこ。だんだん神経がピリピリしてきます。その上農家なんてのはたいてい家族経営ですから、家族が思ったとおりに動いてくれなかったりするとついついキレてしまうこともあります。五月の農村ではあちこちでトーチャン、カーチャンたちの怒声が飛び交います。
こんな毎日ですから、実に危うい精神状態がつづくのです。それが農家の五月病です。
ところが六月になり田植えが終われば自然に治ってしまいます。まるで杉花粉症のようです。そして春がめぐってくるたびに、杉花粉症のごとく毎年発症するのが農家の五月病なのです。
あーおそろしや。
(2000年5月)
コゴミは春の味覚