*ぶらぶらと 旅日記*

 農家というものは一つの土地にじっとしがみついて暮らしています。田畑の草むしりなんかしていると,、それを実感します。
 毎日毎日地べたに腰を据え、時間の経過を忘れて、ただただ手を動かす。単純な労働ほど、気付かぬうちに鈍い疲れがたまります。
 一日の仕事を終え、その日の成果をみてもほんとにちっぽけなもので「今日一日の成果がこれか」とむなしくなることもあります。
 そんな毎日がつづくと、だんだん自分のやっていることが無意味に思えてきて、実はまったく見当違いのことをやっているんじゃないかと落ち込んでしまいます。
 昔のある物理学者によると、時間と空間とは相対的な関係にあるんだそうです。それが本当はどういう意味なのかよくわかりませんが、いくら時間を費やしても答えが見えてこないとき、自分のいる位置をかえてみると、案外答えがでたり、悩んでいることに踏ん切りが付いたりするものです。移動する距離とスピードが時間のよどみに停滞していた答えを引っぱり出してくれるのかもしれません。

湯野上温泉の民宿・会津野
民宿 会津野

ぶらぶらと会津へ・第一日目

 8月1日
 前夜は熱帯夜、とても眠れたものではなかった。
 朝5時に起床、その後の仕事の段取りをつけて7時過ぎ、オートバイに跨り出発。もはや汗がにじみ出るほどに気温になっていた。
 国道13号線を南下。天童、山形、米沢、ふだんよく走る片側2車線のいわゆる幹線道路なので、走っていておもしろくも何ともない。
 歳をとるごとに走り慣れた道がふえ、同時におもしろくない道もふえていく。当然のことではあるが、さびしいことだと思う。
 米沢から国道121号線に乗り、大峠を越え喜多方に向かう。
 さすがに県境付近は幾分気温が低かったが、喜多方の町中に入ると気温が一気に上がった。アスファルトとコンクリートのせいか?蔵の町、喜多方。建ち並ぶ蔵の中は涼しいのだろうか?
 喜多方といえば今やラーメンの町。ラーメン店が多いのはもちろんだが、酒蔵の多さにもビックリする。こんな小さな町に、いったいいくつの蔵元があるのだろうか。
 それから意外だったのはコンビニ店の多さ。ちょっとした都会並。何でこんなに多いの?

 喜多方を過ぎ会津若松へ。会津若松はさらに暑い。頭がボーっとしてくる。ちょうどお昼。「冷やしうどん」ののぼりに誘われてうどん屋に入る。冷やし五目うどんを頼んだのだが、肝心のうどんがあんまり冷えていなくてガッカリ。
 近くのコンビニでアイスをかじりながら宿の予約。一発OK!即出発。南に進路を取る。会津若松を出ると心持ち肌に感じる風が涼しくなった。
 会津若松の南、芦ノ牧温泉に立ち寄ってみるが、ただの温泉街。昼に歩いてもおもしろくない。さらに南下して大内宿へ。
 大内宿はただの田舎の一集落といえないこともないが、昔の民家がこれだけ町並みごと保存されているところはなかなか無い。しかもちゃんとした生活の場なのである。
 未舗装の広い道路を挟み古い民家が立ち並んでいる。ほとんどの家がみやげ物屋やそば屋をやっている。ぶらぶらと冷やかしながら歩くのがけっこう楽しい。
 どん詰まりの山の上に小さな祠がある。石段を何段か登ると突然空気が涼しくなった。祠の前にあるベンチでセミの声を聞きながら一時間ほど涼んでいた。こういう時間ほどゆっくり流れるものだ。
 大内宿をあとに「塔のへつり」にいってみた。大した景観だ。でもそれだけ。
 4時ごろ宿に入る。
 湯野上温泉の民宿「会津野」。建物は茅葺き屋根の古い農家を移築したもので、なかなか趣がある。もちろん温泉付き。周囲を板塀で囲われた露天風呂がちょっとよい。
 夕食はイワナの塩焼き、刺身他。なかなかよろしい。とくにイワナの刺身は絶品!その身の弾力の強さにビックリ。
 汗をかき通しの一日でついついビールをたのんでしまったが、ふと壁をみると「イワナの骨酒」の張り紙。あ〜っこっちのほうがよかった。

 部屋にはクーラーどころかテレビもない。廊下に並べてあった本棚から本を一冊。浜田広介の童話集。湯飲みで持参の泡盛を飲みながら読み始める。
 広介は山形県高畠町の出身。私の祖父も高畠町の出身で、さらにルーツをたどれば会津にたどり着くという。
 戊辰戦争の折、会津を捨てて高畠に移った者の子孫が、百数十年の後に会津の地で浜田広介の童話を読んでいるというわけだ。
 夜だというのに聞こえるのは息苦しくなるほどの蝉しぐれ。ゆっくり、ゆっくり流れていく時間が心地よい。
 つづきは「道楽三昧」で

(2000年8月)

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