*極楽、そば食い生活*

 冬です。冬といえば「そば」。なんといってもそばのうまい季節です。しかもここ山形はそば処なのです。
 山形のそばがうまいということは旅先でそばを食ったときによく分かります。
 店構えのしっかりした専門店ならば、たぶんどこのそばもうまいのかもしれませんが、観光地で観光客相手にやっている店や、立ち食いそばなどを食べ較べるとその差は歴然としています。
 山形では高いそばはもちろん、安いそばまでそれなりにうまいのです。
 一月のある日、用事を済ませた帰りにふとそばが食べたくなり、そばの里・次年子に車を向けました。
 正月以来の大雪もやみ、時折見える晴れ間に雪もゆるみ、しかもそこいらじゅう除雪車だらけでとても走るのが大変です。
 次年子は山里です。平地を離れ、山の方に行くに従い雪が降り出しました。進めば進ほど雪が激しくなり、道に轍が深くなっていきます。
 深い雪をかき分けてたどり着いたのですが、目当ての店は休みでした。他にも何軒かそば屋があるのですが、もう少し先の藁口地区にある「わら口そば屋」に行ってみることにしました。この辺りにそば食いにくる度に通り過ぎるだけで、まだ一度も入ったことのない店です。
 店に行ってみると、店からその周りから雪に埋もれ尽くしているといった感じです。玄関を入っていくと正面に小窓があり、その奥が調理場のようです。小窓の上にメニューが貼ってあって、最初に目に付いたのが「冷たいそばを熱いカモの汁につけて食べる」という張り紙。で、思わずそのつけ麺かもそばを注文しました。
 左手の座敷にあがると、平日の午後とあって他に客はいません。二間続きの座敷の手前に囲炉裏があり、奥の方ではストーブががんがん燃えています。奥の座敷の窓から外の景色が見え、高く降り積もった雪の上に、息苦しくなるほど雪が降りつづいています。
 まず出て来たのが小鍋に入ったカモ入りの汁と、薬味のネギ、小皿に漬け物他一品。汁を固形燃料で温めるようになっており、けっこう大がかりです。そのあとに板そば登場。色が白くて、太さは中くらい。汁はカモの脂が浮いてコクがあり、しかもツユに酸味があるので口飽きせずにいくらでも食べられます。しかしそれよりもそばが抜群にうまい。香りは強くありませんが、一口かむ度に上品な香りが口じゅうに広がり鼻にぬけます。半分ほどは何もつけずにそのまま食べてしまいました。
 店自体落ち着ける雰囲気で居心地がよく、食べ終わった後もずいぶんゆっくりしてしまいました。表ではまだ雪が降りつづいています。
 雪の季節はそばがうまい。それも暖房のきいた部屋で冷たいそばを食うのが一番うまい。そしてたまたま入った店でとてもうまいそばに出会える。これこそ山形がそば処である証明です。

(1999年2月)

そばを食うの図
雪の降る日に板そばを食う

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